着物が似合うこの町で
多くの人に和の体験を
中村 充
ナカムラ ミツル
『きものの赤穂屋』十六代目。
年に300日は着物を着て茶道歴も10年と、日本文化全体への造詣も深い。学生時代は駅伝部に所属し、全国高校駅伝にも出場した。
情緒ある建物が続く八町大路のなかでも、ひときわ和の風情を漂わせている店が『きものの赤穂屋』。この店の十六代目が中村充さんだ。現代的な若者が着こなす凛とした美しさは、着物の持つ懐の深さをそのまま表しているようだ。
帰郷したのが8年前。進学や就職で地元を離れ、再び臼杵で暮らし始めた。観光客へ向けて「街歩きレンタルプラン」を企画したのも彼だ。「着物を着て臼杵を歩く。それ自体が日本文化の体験です。非日常を楽しみながら体験していただくことで、少しでも着物が日常のものに近づいてくれれば」。さらには古い書物に描かれていた絵をもとに、昔の人が楽しんだ和菓子を250年ぶりに復活させた。着物だけでなく、着物を取り巻く和の文化全体を見つめ、現代の暮らしの中にしぜんに取り入れたい。彼の活動の根底には、そんな思いがあるようだ。「着物を着ると、見た目だけでなく内面からも美しさや凛々しさがにじみ出てきます。人が集まった時に『アッ、今日は着物だったんだ』というくらい、誰もが普通に着物を着ている暮らしが理想なんです」と、精悍な顔が笑顔に変わる。ハレの日だけでなく、普段使いの着物。そんな暮らしの先頭を行くように石畳の町を歩く中村さん。その足取りは今日も、軽やかで楽しげだ。