伝統の味に笑いをプラス。
老舗蔵元の新たな挑戦
可兒 明子
カニ アキコ
別府から臼杵に嫁いで54年。名前通りの明るい笑顔で親しまれる、店の看板娘。facebookやインスタグラムなどSNSを駆使して店の情報を発信している。
慶長五年(1600年)創業。『カニ醤油』は九州でもっとも古い味噌・醤油の蔵元だ。420年以上の歴史を感じさせる外観だが、店内に入るとその印象はガラリと変わる。伝統の味噌や醤油とともに「黒だし番長」「ダーシィ ハリー」といった名前の商品がズラリと並んでいるのだ。老舗のイメージとは真逆の商品は、訪れた人たちを笑顔に変えてゆく。眺めているだけで楽しい店。買ったらもっと楽しい店。それが『カニ醤油』だ。
店の看板娘は可兒明子さん。十二代目店主・愛一郎さんの母だが、今も元気で店に立つ。「昔は従業員も多かったけど、息子が臼杵に帰ってきた頃は私たち夫婦だけになっていてね。暗くて商品も少ない店を見て、息子が『店が暗いのはユーモアがないからだ!』っていったんです」。それから店は変わった。愛一郎さんを中心に、小ロットで個性的な新商品を次々に開発。ダジャレのような商品名も大いに話題となった。「たくさん作ったけど、消えていった商品も多いんですよ。まあ、大量生産だったら、こんなことできませんよね」と笑うが、その自由な発想も、伝統に裏打ちされた技があってこそ。良い意味で吹っ切れた老舗は、かくも軽やかで鮮やかだ。「足元は、つねに地元」という『カニ醤油』。だがその眼差しは、もう少し遠くを見ているようだ。